2006/09/17

 

天狗なめし?

 

9月17日() そこは深山のとある堰堤の小さなプール。

 

そこで40オーバーのイワナを筆頭に尺物が数えて14匹。という夢のような光景を目撃したのは、2週間前。その時、手を変え品を変えてやってみたが、全く反応がない。業を煮やして水際まで近寄って、まさにロッドのティップで触れるほどになっても、じーとしている。どうやら、寝ているようだ・・・。食い気がない。それでもしつこくやつていると、とうとう立ち枯れの木々の下へ入って、そこで寝ている。これではイブにしかチャンスがないかもしれない。だが、本日、イブまでここにいられない。と、後ろ髪を引かれながら帰った。

 

その後、父親が入院したりして出撃するチャンスが無く、やっとこの週末が巡ってきたが、どうも台風がくるらしい。心配した直撃は免れたが、秋雨前線が活発になって、局地的に土砂降りの可能性もあると、天気予報は言っている。熊の足跡もあるような山深き場所。お世辞にも土砂降りでは安全と言いにくい。できれば単独は避けたいが、同行者も無し。だが、行きたい。このために、フライもそろえたし、仕事中も夢を見ていた・・・。

 

当日、朝、単独もやむなし・・・と、半分思ったところ、掛け軸さんが同行してくれるという事になった。(まぁ実際には、半分、工房に押しかけて、引きづり出したようなもんだが・・・)

 

車で行ける最終地点には先行者の車は無かった。いそいそと支度をして廃林道を進む。

パラダイス(ハライソ)を見た時は渇水で谷の水量もお情け程度だったが、例の梅雨前線のおかげで、週のなかばにまとまった雨が降り、眼下に見える谷はいい感じになっていた。釣ってみたかったが飛ばして、ハライソ堰堤へと進む。渇水の時、堰堤のプールに流れ込みは無く、水は途中で伏流し、地下を通ってプールの底から湧き水となって吹き出していたが、今回はたぶん流れ込みも出来て、そこに頭を寄せ合って、エサが流れてくるのを待っているに違いない・・・。と勝手な想像だが、本気でそう思う。仮に堰堤のプールに居なかったら、渓に入っているのだろう。すぐ上にも堰堤があるので、彼らは行き場がないはず。と、なると・・・・ふふふのふ。

 

とか言いながら掛け軸さんと廃林道を進む。直撃は避けられたといっても日本海海上を北上している13号のおかげで、蒸し暑い。途中、ヘビを見る。マムシだった。

またヘビを見る。また、マムシだった。さらにヘビを見る。さらにマムシだった。掛け軸さんが、ヘビを踏みそうになる。またまた、マムシだった。マムシだらけ・・・。なんでこんなにマムシがいるのか?ヘビをよく見る事はあるが、すべてマムシというのは初めてだ。

スパッツをつけているので、とりあえず下は安全?だろうが、岩のぼりやガケのぼりの時手を掛けるから注意したほうがいい。伸チャの二の舞はゴメンだ。そういう場面になると、「お先にドーゾ・・・。いやいや、そちらこそ」となってしまった。

 

なんとか無事?に枝谷に到着。この谷を下って本谷へ降り、ハライソに向かうのだ。この谷はハライソの少し上流にあるので、当然下ってプールに行くことになる。前述のようにプールから谷に遡上している可能性もあるので、ダウンになるが、慎重にフライを浮かべたり、誘ったり、はたまた沈めたりをしながらプールへと向かう。

 

が、何も反応がない。チビも出ず。

 

まだプールにいるのだろうか?きっとそうだ・・・流れ込みで頭を並べて・・・。ふふふ。

 

しばらくして見覚えのあるプールが出てきた。やはり流れ込みが出来ている。一服して、持ってきた缶ビールを頂く。さすがにクラーボックスはないので温かくなったが、「冷えてなくてもビールはビール」と掛け軸さんが言う。廃林道を歩いて来たおかげで、温かいがうまかった。次におにぎりをほおばる。ほおばりながらプールを見ている。ライズに見えるのは、湧き水の泡だ。あれが本当にライズなら少しは簡単になるだろうが・・。

 

さて、と・・・腹ごしらえも終わった。

 

そっと水中を探す。

 

いない・・・。いない・・・。い・な・い・・・。どこへ行ったのだ?あれ?流れ込みで頭を並べてという話は?・・・・。流れ込みはカラッポ・・・。うそでしょ?

 

ふと、カラン、カラン、カランと岩が落ちていく音がする。下流の山並みから聞こえる。空耳か? しばらくしてまた、音がする。雨が降ったから、もろい山肌から岩が落ちていくのか?

 

気にはなったが、それよりも、ハライソ・プールが、カラッポだぁ〜?

こりゃ、上から見よう。確かめてみよう。と、水際をそっと歩いて、斜面をよじ登り、そっと、堰堤の上に立つ。

 

いない・・・。この前のアレは何だったのだ?すでに抜かれたのか?足跡もなくて、釣り人が大挙して来たという感じはしないが・・・。

 

また、カラン・カラン・カランと岩が落ちていく音がする。堰堤に立っているのでよく聞こえる。音がした方向へ目を向けるが、そちら方面で、崩落した場所はない。落ちていく音が長すぎるし、ここまで音が届くようなら、大岩でなくてはならないだろうし・・。それに天空というか、山の頂付近から音がした。

 

さらにもう一度・・・。

 

おかしい。と思った時、パーンと爆竹のような音がする。音の方向は同じ。誰か入っているのか?沢屋か?

 

気味悪いと思ったが、とりあえず魚を探すと、ベタ底に貼り付いているイワナを3匹見つけた。尺はないがソコソコのサイズだったが、ベタ底でじーとしている。それにここにはフライを入れれない。

 

また、パーンと音がした。

 

帰ろう。どうも変だ。

 

堰堤から降りて、掛け軸さんに、「帰りましょう」と言う。ここまで来て、フライも浮かべず帰るの?と言うが、魚もいなくて釣れる見込みもないし、なんか変だし。

掛け軸さんには、岩が落ちる音や、爆竹が鳴る音は聞こえていないみたいだった。

 

久しく忘れていたが、20年ほど前に、アルツ石川と石徹白の奥へ入ったことがある。9月の夕暮れ時、魚は出てもいい頃合いだったが、ほとんど釣れなかった。

やっぱり、音がする。大きな大きな石がゴロンゴロンと音を立てて、落ちていく音がする。それも近くで・・・。この時は、石川も聞いていて、「なんで今頃になって、林道工事?」

そういう感じの音。重機で、大石を谷底へ落とすような音。でも重機の音はしない。間隔が短くなって、ひっきりなしに、石が落ちる音がする。目の前の尾根からする。あそこには帰る林道がある。

どちらからもとなく、「もう、出ようか?」と、ちょっと恐怖に似た感覚で、車に戻り、仲居神社が見えたときに、やっと安心した。

 

「天狗なめし」というらしい。山奥でカーン、カーンと大木が切り倒される音がしたり、山が崩れる音がするが、その場所へ行ってみても、何事もない。という深山の不思議な現象らしい。遠野物語にはよく出てくる。また、「天狗の太鼓」というのもあって、やはり山奥で夕方、誰かが太鼓を叩く音がするらしい。まだ太鼓は聞いたことはない。

はたまた、奥深き谷に入っていると、ふと気がつくと、まわりに大勢の人がいて、お喋りをしている声がする。これは、何度か聞いたことがあるが、聞こえる人と聞こえない人がいるようだ。何を言っているのかわからないが、ざわめきというか、ちょうど、宴会の席で、あちらこちらで、それぞれの話をしている時みたいな感じだ。しかし、やはり気味悪いので、出渓となる。

 

山には入っていけないがあるようだ。親類の古老は、「初寅の日には山へ入ってはいけない」と語ったことがある。昔は、そういう掟があったのだろう。林道のマムシがそうだったのかもしれない。

ACFC−Y師匠に聞いたが、一昔、この谷の下流で、一台の乗用車が谷に落ちた。発見されたとき運転手は死亡していた。そのトランクを開けてみたら、おびたたしい数のマムシが出てきた。ありゃ、マムシ獲りの人だったのだろう・・・。獲ってきたマムシに噛まれて、ハンドル操作を誤って谷底へ転落したのだろう。という事だ。

だが、本当は、入ってはいけない日に入ったから・・・・。そしてマムシを沢山捕まえたから・・・。かもしれない・・・。

 

日本の山には神様がいる・・・ 敬い、汚さず、遠ざけるのがよろしいかと存じるがいかに。

 

 

おまけ

結果は釣れず・・・。ただ、その魚のことを考えて過ごした日々がしあわせでもあったけど・・・。