短 編 1

  アイガモの「アイちゃん」物語

 

アイガモの 「アイちゃん」

 うちの前に用水があって、そこにアイガモがいる。こいつは1年ほど前に突然・・・来た。たぶん誰かが飼っていたけど、大きくなってきたので捨てたと思う。はじめはもっと小さかったし、羽根も成鳥のソレじやなかった。

 

 首に太い釣り糸のようなのが巻き付いていた。親父が、そのテグスをとってやろうとしたけど、なかなか近くへは寄せ付けなかった。で、エサを与えて警戒心を解き、テグスを首からとってやろという事になって、毎日、食パンを持って、アイガモに会いに行った。そのうちに、アイガモだから、「アイちゃん」と呼ばれることになった。

 最初は警戒していたアイちゃんも、しだいに慣れてきた。テグスはいつの間にか外れていたけど、親父は、それでも毎日会いに行き、今では、遠くからでも、親父の姿わ見つけると、スイスイと泳いでやってくるし、手渡しで、食パンも食べる。親父はそれが、かわいくて、しかたないようだ・・・・。ちなみにアイちゃんはメス。

 

カルガモの 「羽根折れ」 さん

  ここ毎年のように、この用水では、カルガモが何羽もやってきて、子育てをする。20004年の子だと思うが、このカルガモもここで生まれて育った。まだ、やっとこ、やっとこで、飛べる頃に、どういうわけだか、この用水の前にあるラーメン店のシャッターに大激突して、左の羽根がひどく曲がって、出血し、うずくまっていた。

 それを親父が見つけて、なんとかして助けてやろうとした。バスタオルを持ってきて、被せて、保護し病院に連れて行こうとしたが、失敗してしまい、このカルガモは、走って用水に逃げ込んでしまった。さすがは水鳥なんで、そのあと捕まらず・・・。羽根がひん曲がった状態で暮らしていたが、羽根が曲がって固まってしまったので、飛べない・・・

 他のカルガモとの区別の為に、「羽根の折れたカルガモ」とフルネームで呼んでいたけど、いつしか、「羽根折れ」さんと呼ばれるようになった。

 この羽根折れさんは、食パンには見向きもしない・・・というか、野性の本能か、警戒心が強い。たぶん自分が飛べないことを悟って、飛んで逃げれないから余計に警戒心が強いのだろう。水草の根や藻、時々、ミミズなど見つけて食べている。

 

 今でも夏にたくさんのカルガモがやってきて子育てをする。毎年、親について一生懸命泳ぐヒナたちを見るのは、ほほえましい。羽根が折れて飛べないカルガモの「羽根折れ」さんは、やっぱり自分はカルガモって思っているらしく、他のカルガモのところへ行って、一緒に過ごす。アイガモ「アイちゃん」も、他のカルガモのところへ行くが、やっぱりアイガモなので、他のカルガモ達は、どことなくアイチャンを避けるようだ・・・。

 秋になって多くのカルガモが巣立って飛んでいく・・。日に日にカルガモの姿が無くなっていく。

カルガモは留鳥なんで、別に北の国へ行くとか南の国へ行くとかはないのだけれど、この用水から離れていく。それは、この用水が秋になると導水を減らしてしまうからだと思う。

 やがて羽根折れさんと、アイちゃんの2羽だけ・・・となる。

 お互いさみしいのか、一緒にいる時間が長くなる。

 特に、アイチャンは羽根折れさんの姿が見えないと、グワァ〜、グワァ〜・・・・と大きな声で鳴いて、羽根折れさんを探す。そして羽根折れさんを見つけると、尾を振って、一生懸命、羽根折れさんのところへ泳いでいく。

2羽は仲がいいが、どちらかというと、アイちゃんの方が、羽根折れさんにベッタリだ。羽根折れさんは、自分は野鳥のカルガモである。というプライドがあるみたいで、飼育鳥のアイガモとは一線を引いているフシもある。

 時々、他のカルガモがやってくる事がある。すると羽根折れさんは、やっぱりカルガモ集団のところへ行ってしまい、アイちゃんは、またしても、グワァ〜、グワァ〜鳴きながら羽根折れさんを探す。

けど、しばらくすると他のカルガモは、飛び立っていく。それを、じーと見つめる飛べない羽根折れさん・・・・。本当は自分も空を舞いたいし、ここから出て自由になりたいだろう。なんだか切ない場面だ。

 用水の横に小さいけど、親水公園が作ってあり、そこに池がある。羽根折れさんは、時々用水から出て、歩いて、この池に来ている。すると羽根折れさんの姿が見えなくなったアイちゃんは、グワァ〜、グワァ〜と鳴いて羽根折れさんを探す。親父が、パンを持ってきて、アイちゃんを誘導して、池に連れていくと、食パン欲しさに用水から上がったアイちゃんだが、池の中に、羽根折れさんの姿を見つけると、大好物の食パンはそっちのけで、急いで、池に飛び込んで、羽根折れさんのところへ行く。よほど羽根折れさんが好きなようだ。

・・・・・・

 最近、羽根折れさんは、羽ばたきの練習をしている。練習をしばしめてから、折れて曲がっていた羽根はだんだん真っ直ぐになっていく・・・・(みたいな気がする)  そして、親水公園の池から、用水に向かって飛ぶ。用水の方が随分と低いので、飛び込む形になるが、それでも飛ぶ。はじめは3メートル程だったけど、それが5メートル、7メールと距離が伸びてきている。でも、やはり飛べないんだろう・・・。高い位置からならなんとか飛んでいるように見えるけど、実際に水面から羽ばたいて飛べない・・・・。

 と思っていたら、10日ほど前、他のカルガモ達が来ていて、一緒に羽根折れさんも彼らと泳いでいた。子供達がやってきて、カルガモにチョッカイを出したら、一斉にカルガモが飛んだ。すると、羽根折れさんも、水面から羽ばたいて、飛んだ。他のカルガモはそのまま飛んでいってしまったけど、やっぱり羽根折れさんは飛べなくて、10メートルほどむこうに着水した。それでも、水面から羽ばたいて、10メール飛んだ。

すごいぞ、羽根折れさん。毎日、毎日、練習していたからね。なんかひたむきに努力するって、すごいな。

 でも、もし、羽根折れさんに奇跡が起きて、飛べるようになって、どこかへ行ってしまったら、アイちゃんはどうなるんだろう・・。

毎日、毎日、泣いて、羽根折れさんを探すのか?

それを見ているのも切ないな。

できたら、羽根折れさんは飛べるようになっても、アイちゃんと一緒に暮らしてやって欲しいと思う・・・・・。

 

 

ahiru_da_photo  2007/01/09